東京国立博物館「書聖 王羲之展」ワークショップ「王羲之の複製を作ろう」に文字なぞり部員である小針優弥(@yuyakobari)が参加してきました。その様子を報告します。
王羲之の直筆の作品は現存していませんが、多くの人に愛好され、様々な方法で多くの模写が作られ伝わっています。その中でも、唐時代の始めに搨書手という宮中の専門職人が、双鉤填墨という技法を用いて作った精巧な模本は 王羲之の書の実像を最も良く伝える資料と考えられています。双鉤填墨とは、書の上に紙を置き、文字の輪郭に沿って線を写し塗りつぶす方法、つまり文字なぞり部に通ずる方法です。
ワークショップでは書家山中翠谷先生(独立書人団常務理事)の指導のもと、双鉤填墨に挑戦しました。

配布されたのは、今回の題材である行穣帖、薄くにじみにくい仮名用半紙、筆、筆路を説明した図、双鉤填墨に関する資料など。
さっそく双鉤填墨を始めていきます。まずは、輪郭に沿って籠字をとります。このとき、筆を立てて極細の線を引 くこと、にじまないように墨は少なめ、紙や身体を動かして常に下の字が見えるように書くことがコツ。

籠字を完成させました。墨をつけすぎて太くなってしまった箇所がいくつかあります。
籠字がとれたら中を塗っていきます。元の字をよく見ると、墨の濃いところと薄くかすれているところがあるのが わかります。薄いところは細い線を何本も重ねる方法でもよいが、墨付きの少ない筆の根元を使って書いたり、水で墨を薄めたりする方法もよいそうです。実際に当時の職人がどのような方法で書いていたのか、詳しいことはわかっていません。また、筆順に従って書くと、躍動感が出るので、なるべくそう書くようにします。

完成です。正確な模本をつくることは、大変難しいということを身をもって体験できました。当時の職人の超絶技法 には足下にも及びません。
山中翠谷先生は、ご自身の書活動の中で双鉤填墨をすることがあるそうです。双鉤填墨することで、その書の形はどうなっているのか、その形が生まれるためにどうしているのか、動きや息づかいなどがわかるそうです。また、太宗皇帝の時代に作られた模本は素晴らしいのに対し、則天武后の時代の模本は雑であるという興味深いお話もありま した。いかにも双鉤填墨で書かれたというのが見てわかってしまうそうです。模本を作らせた皇帝の権力にも影響があるのではないかと考察されていました。
双鉤填墨を体験し、王羲之の書に漂う美的要素が少しばかりわかった気がします。しかしそれ以上に、王羲之や模 本を作った職人に対しての敬意が自分の中に生まれたことが、一番の成果であると思います。
みなさんも是非双鉤填墨をしてみてはいかがでしょうか。
@yuyakobari